「LEMON DROPS」

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『完全に帰るタイミングを逃したね』  ベランダに並んでしゃがみこんで、息を潜めてる。  こぶしひとつ分ほどの距離にいるのに、わざわざ携帯電話に文字を打ち込んで会話しなきゃいけないのは、何もかもあいつらのせいだ。  同じクラスの香山と松岡。サッカー部で絵に描いたようなさわやかさで人気がある香山と、容姿は十人並みとしか言いようがない松岡。動物園のコアラやサルの親子の映像にそっくりだ、とクラスの女子に陰口を叩かれてたほど、いつでも松岡は香山にぴったりとくっついて離れようとしない。なのに香山は迷惑そうな顔一つせずにいて、友達や他の女子にも同じように優しく接するから、香山への好感に反比例して松岡への反感が強まっている。  誰が誰と付き合おうが、俺には津島がいるから関係ない。対岸の火事のはずだった。  その二人が、教室の中で直視できないほどのキスをしているので、俺と津島は今、物凄く迷惑をこうむっている。
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