群青2 モノクロ第8話

36/39
1571人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
俺の為に佐藤が探してくれた店に入る直前。 「あ」と声を出して佐藤が振り向いた。 つられた俺も同じ方向に顔を向ける。 こんな所で、こんな時に起きなくてもいい偶然が起きた。 「……い、飯山さん」 佐藤の声はいつもの彼らしくなく、思わず笑ってしまいそうになるくらいに弱々しい。 「あ。こんばんは」 俺達に気がついて驚いた顔をするゆずに代わり、隣にいた男が声をかける。 会ったのはたった一度だけだが、俺を覚えていたらしい。 「こんばんは」 『乾課長』らしく穏やかな声で挨拶を返し、やんわりと微笑んで見せた。 薄く染まり始めた夜の闇に紛れ、視線を少し下に落とせば 指を組み、きゅっと握られた二人の手が目に入る。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!