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俺の為に佐藤が探してくれた店に入る直前。
「あ」と声を出して佐藤が振り向いた。
つられた俺も同じ方向に顔を向ける。
こんな所で、こんな時に起きなくてもいい偶然が起きた。
「……い、飯山さん」
佐藤の声はいつもの彼らしくなく、思わず笑ってしまいそうになるくらいに弱々しい。
「あ。こんばんは」
俺達に気がついて驚いた顔をするゆずに代わり、隣にいた男が声をかける。
会ったのはたった一度だけだが、俺を覚えていたらしい。
「こんばんは」
『乾課長』らしく穏やかな声で挨拶を返し、やんわりと微笑んで見せた。
薄く染まり始めた夜の闇に紛れ、視線を少し下に落とせば
指を組み、きゅっと握られた二人の手が目に入る。
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