雨の奇跡

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朝は晴れていたはずなのに 今は鉛色の雲が空一面に広がり 数メートル先も白く霞んで見通せないほど 滝のような雨を降らせている すぐ近くに居る友達の声でさえ かき消されそうなバチバチと激しい音 エントランスから一歩でも出ようものなら 地面から跳ね返った雨で一瞬にしてずぶ濡れになるだろう そんな自分の姿を想像して思わず溜息が出る 横目で外を見ながら のろのろとした動作で上靴からローファーに履き替え 牛歩のような足取りで靴箱を後にした エントランスでは傘のない人達が 一様に困った顔で外を眺めている その中に、ふと気になる顔を見つけた 恨めしそうに空を見上げる彼に胸がきゅうと締め付けられる 急激に上がる心拍数 左肩に掛けた鞄の中に右手を突っ込み 目当ての物を握り締める さっきまで耳障りだったはずの叩きつける雨音すら 今は応援団の太鼓の音に聞こえてしまうから不思議だ さあ 彼は何て答えてくれるだろう 「ねえ、傘…ないの?」
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