彼の隣、彼の声

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翌日のメイクは、普段よりだいぶナチュラルを心がけた。 ただ、青白い顔だけは隠したいから、ファンデーションはしっかりめに。 ママとパパからはなかなかの高評価を貰っていつもの時間に家を出た。 それにしても、昨日は本当に朝からタイミングの良すぎる1日だったと思う。 あの人の隣の席が偶然空いて。 その席に1番近い場所に私が偶然立っていて。 そして座ったと思ったら、偶然財布とお弁当を忘れてしまったせいでパパから連絡がきた。 いろいろな偶然が本当に重なり過ぎた日だった。 あんな日は、きっともうないだろうな。 でもまぁ、何もない方がいっか。 毎日、平凡で穏やかに。 生きていられるだけで、幸せなんだから。 『バスが発車します。揺れにご注意下さい』 いつものバスに乗り込み、運転手さんのいつものアナウンスを聞きながら、いつもの席に座る彼をチラ見する。 ……うん、ほんと、これだけで幸せだ。
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