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「…これ」
そう言って彼はスッと私の目の前に、見覚えのある生徒手帳を差し出した。
「…え、あの、これ…」
「昨日、座席の下に落ちてたから」
彼の手から、小さな生徒手帳を両手で受け取った。
…その手は、自分でも恥ずかしくなるくらいに震えてしまっていた。
「じゃあ」
「…えっ」
ありがとうございます、の一言を振り絞る前に彼は私の横を通り過ぎ、バスを降りてしまった。
「………」
その瞬間。
完全に無意識に、私の足は彼を追いかけていた。
衝動的な行動。
でもこういうとき、行動は思考より嘘をつかない。
些細な事でもあれこれ考えてしまう私が、気付けば何も考えずに彼と同じバス停でバスから降りていた。
そして、バスを降りて左手に見える横断歩道に向かって歩き始めた彼の背中を捉えた。
「…あの!」
呼び止める私の声に反応し、彼はくるりと振り返り私を見た。
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