彼の隣、彼の声

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「せ…生徒手帳!拾ってくれて、ありがとうございました!」 …思いっきり出だしから噛んでしまった声。 …しかも、僅かに声が裏返ってしまった。 でも、どうしてもお礼を伝えたかったから。 「あー…別に、たまたま拾っただけなんで」   うわ、喋ってる。 私、この人と本当に喋ってるんだ。 信じられない。 嘘みたい。 明らかに同級生の男子よりも低めの大人な声。 シャープな顔立ちに、少しクセのある黒い髪。 似合い過ぎている、グレーのスーツ。 「………」 「………」 あ、どうしよう。 会話、終わっちゃった…。 沈黙の中、見つめ合う2人。 先に視線を逸らしたのは、彼だった。 「……じゃあ」 …と、彼は軽く私に会釈して、また私に背中を向けようとした。 「あ…あの!」 まだ、行かないでほしい。 無理やりでもいい。 何とか、話を繋げたい。
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