彼の隣、彼の声

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「……何?」 そんな私の心の中とは違って、彼は早く会社へ向かいたいはずなのに。 少し面倒くさそうな顔を見せながらも、また私の声に反応してくれた。 「…名前、教えて下さい」 「……は?名前?」 「あなたの名前、教えて下さい!」 何言ってんだ、私。 突然こんな事聞いたら、怪しまれるに決まってるのに。 そう心の中で思いながらも、彼の名前が知りたくて仕方ない自分もいる。 チラリと彼に視線を送ると、彼は黙り込んだまま、困惑の表情を浮かべて私を見ていた。 ……困らせてる。 ……大失敗だ。 「……変な事聞いてごめんなさい。気にしないで下さい、すみませんでした!」 バカ、バカ、バカ。 生徒手帳を受け取ったところでやめておけば良かったんだ。 追いかけたりしなければ良かった。 隣に座れただけで良かったのに。 声を聞けただけで良かったのに。 ……これ以上迷惑かけないように、早くここから立ち去ろう。
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