彼の隣、彼の声

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だけど、彼に背を向けた瞬間。 思いがけない言葉が、耳にスルリと流れ込んできた。 「俺の名前なんか聞いてどうすんの?」 ……言葉を、返してくれた。 背を向けていた私は勢いよく振り返り、彼に向かってただ思いつくままの言葉を伝えた。 「ただ知りたいだけなんです!」 「……知りたいだけって…」 「わ、私怪しい者じゃないですから!別に名前を知ったからって悪用しようとか考えてないし、SNSで名前検索してプライベートを知ろうとしてるわけじゃないし!ただ……」 ずっと、気になっていたから。 こんなチャンス、二度とないと思ったから。 「ただ本当に名前知りたかっただけなんです……」 もう語尾は殆ど力なく消えかけていた。 必死過ぎて、哀れを通り越して惨め。 …ううん、惨めなんて更に通り越して… 「……梶真、だけど」 「…え……」 …彼の顔からは困惑の表情は薄れ、代わりに少し照れくさそうに名前を答えてくれた。 ……カジマ、さん。
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