469人が本棚に入れています
本棚に追加
だけど、彼に背を向けた瞬間。
思いがけない言葉が、耳にスルリと流れ込んできた。
「俺の名前なんか聞いてどうすんの?」
……言葉を、返してくれた。
背を向けていた私は勢いよく振り返り、彼に向かってただ思いつくままの言葉を伝えた。
「ただ知りたいだけなんです!」
「……知りたいだけって…」
「わ、私怪しい者じゃないですから!別に名前を知ったからって悪用しようとか考えてないし、SNSで名前検索してプライベートを知ろうとしてるわけじゃないし!ただ……」
ずっと、気になっていたから。
こんなチャンス、二度とないと思ったから。
「ただ本当に名前知りたかっただけなんです……」
もう語尾は殆ど力なく消えかけていた。
必死過ぎて、哀れを通り越して惨め。
…ううん、惨めなんて更に通り越して…
「……梶真、だけど」
「…え……」
…彼の顔からは困惑の表情は薄れ、代わりに少し照れくさそうに名前を答えてくれた。
……カジマ、さん。
最初のコメントを投稿しよう!