彼の隣、彼の声

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「……下の名前は…?」 恐る恐るそう聞くと、彼は数秒の沈黙の後。 「……棗」 ナツメ。 梶真 棗。 それが、バスの後ろから二番目、窓側の彼の名前。 「あ…ありがとうございます!あの、私の名前は、桐…」 「知ってるよ。生徒手帳見たから。キリタニ、ジュンだろ」 …そう、さっきのバスの中でも彼は私の名前をそう言った。 本当は、キリタニじゃなくてキリヤなのに。 生徒手帳にはフリガナはふっていないから、桐谷の読み方を間違えてもおかしくはない。 「あの、でも本当は、」 「あ、やべ。会社遅れる。じゃあなっ」 「え」 …行ってしまう。 「棗くん!仕事、頑張って下さい!」 梶真よりも棗の方が何となく頭に残ったから、思わず下の名前で呼んでしまった。 「……棗くんって…あのさぁ…」 ……当然、馴れ馴れしいと思うよね普通。
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