その瞳の、視線の先に

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「棗くん、おはよう!」 「…おはよ。…あんた、いつ見ても元気だな」 「棗くんはいつも眠そうだけど、朝弱いの?」 朝バスの中で棗くんと会話をするようになってから2週間が過ぎた。 最初は、言葉を交わすだけでも緊張してうまく話せなかった私だけど、だんだん顔を合わせる内に少しだけ緊張感は薄れていった。 棗くんは会社への通勤のためにこのバスを利用している。 会社の休みは、土日祝。 私は高校への通学のためにこのバスを利用していて、高校の休みもまた、棗くん同様土日祝。 だから土日祝日はどうやっても棗くんに会う事は出来ないけれど、その分平日の月~金は毎朝棗くんに会える。 そしてラッキーな事に、この2週間棗くんは出張がなかったから、平日は毎朝棗くんの隣をキープする事が出来た。 「朝弱い。だからって別に夜もそんな強くはないけど」 「結局どっちも弱いって事?」 私が質問をしたら、必ず棗くんは何か言葉を返してくれる。 無視は絶対にしない。 そういう人。 私はそんな棗くんの優しさに甘えて、いつの間にか自然と敬語を崩すようになっていた。
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