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「それよりあんた、何でここにいんの?」
「……あんたじゃなくて、名前で呼んでほしいんですけど」
私は『棗くん』って呼んでいるのに、一向に棗くんは私の事を名前で呼んでくれない。
あんたとか、そっちとか。
確かに棗くんの名前は私が勝手に呼び始めた事だけど、だとしても、私だって好きな人に名前で呼ばれてみたいよ。
「……名前、何だっけ。えーと…確か桐…」
「純だよ」
名前、忘れてたんだ。
ちょっとショックだ。
私にとって棗くんの名前は、きっと一生忘れる事のない名前なのに。
……でも、仕方ない。
名前を忘れていた棗くんが悪いんじゃない。
ただ私が、彼にとってどうでもいい存在なだけ。
「あ、そうそう。純だ。…で、純は何でこんな時間にこんなとこいんの?」
棗くんはやっぱり酔っているからか、少しも躊躇せずに私の事を純と呼んだ。
まるで今までもそうやって私の事を呼んでいたかのように、自然と。
……名前呼びに思いきり照れてしまったのは、免疫のない私だけ。
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