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「棗くん、5分経ったよ。起きて」
だけど私の声なんて一切耳に届いていないらしく、棗くんが起きる事はなかった。
「……棗くん、起きてってば…」
声だけで起きないなら、少し体を揺らしてみよう。
そう思って、棗くんの腕に軽く触れた。
……そのときだった。
「……綾乃……」
「……っ」
『あやの』
眠ったままの棗くんの口から、ハッキリと聞こえてしまった、名前。
そしてその名前を聞き取った瞬間、自然と私の瞳からは涙が零れていた。
聞きたくなかった。
さっきまで私の名前を呼んでくれていたその口から、別の女の人の名前なんて聞きたくなかった。
「……棗くん。……好きです」
聞こえていないから、言える想い。
初めて出逢ったときから秘めていた、私の大切な想い。
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