切なくて、もどかしい、恋心

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……棗くんと、喋りたかったな。 せっかく金曜日の夜、偶然あの公園で会えて、普段とは少し違った棗くんの表情が見れたのに。 本当に少しだけ距離は縮まった気がしたのに、こうやって遠くから棗くんを見ていると金曜日の夜の事が夢だったんじゃないかと思えてしまう。 ……あの寝言だけは、夢でもいいけど。 「……あ」 いつもとは違う立ち位置から棗くんの姿を見つめていたら、棗くんがスッと動いた。 『今日も仕事、頑張ってね』 …と、心の中で念を送る。 バス酔いする冬汰さえいなければ、棗くんに直接言えたのに。 「…純」 「え?」 「口、歯磨き粉付いてる」 「えっ!」 冬汰はそう言いながら、私の口の端を指で雑に拭った。 その間に棗くんは、いつものバス停で降りてしまっていた。 「子供か、お前は」 「……ありがと」 ……言葉を交わせなかった事は残念だったけど、顔を見れただけでも良しとしよう。
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