貧乏神

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貧乏神

「あの店…じきに潰れますよ」  会社帰りに立ち寄った店。そこから駅へ向かう途中、連れて行った後輩がつぶやいた。  人が奢ってやった直後に何だ、失礼な…と思ったが、たまたま入った居酒屋は全国どこにでもあるチェーン店で、特に愛着がある訳でも馴染みでもない。  後輩も、普段は礼儀正しいイイ奴で、こんな失礼なことを言うタイプじゃない。  だから、どうしてそんなことを言い出したのか気になった。 「何か、噂でもあるのか?」  チェーン店なら、ここが繁盛していても大元が倒産して末端店舗が閉店になる、なんてことはよくある話だ。もしかしたら後輩は、そういう情報をどこかで耳にして、それを話しているのかもしれない。  そう思っての質問だったが、返ってきたのは意外すぎる答えだった。 「今の店、貧乏神に憑りつかれてますから」  貧乏神が憑りついてる?  酒が入っているにしても、言うことが突拍子もなさすぎる。  普段、たいして冗談なんか口にしないタイプだが、酔うとこういうことを言い出す奴だったのか。 「あー、すみません。変なこと言いました。貧乏神とか、いきなりオカルト話されても信じられませんよね」  俺の顔色を読み取ったのだろう。ぺこりと後輩が頭を下げる。でも今の言葉を冗談だとは言わない。だから少しだけ話に乗っかってみようと思ったのは、俺も酔ってたせいだろう。 「まあ確かに、にわかには信じがたいが、お前がいるって言うならいるんだろ。お前、嘘つく奴じゃないし」  俺がそう言いうと、途端に後輩は目を輝かせた。誰に話しても信じてくれたことなんかなかったのにと、嬉しそうに口走る。  そこからは、後輩による貧乏神語りがしばらく続いた。  大きさは小学校の低学年くらい。ぼさぼさの髪のせいで顔はよく判らないが、多分、性別は男だと思われる。衣服は足元まで垂れた灰色の布きれ。  そいつが、飲食店でも企業でも一般家庭でも、倒産・閉店・一家離散、みたいな状況になる家なり店舗なり家屋なりの、屋根の上に現れるらしい。
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