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「……棗くん。ひとつだけ、教えて」
「……何?」
「……棗くんのその想いは…本当に片想いなの?」
棗くんは、綾乃さんが好き。
でもその綾乃さんには、関さんがいる。
素敵な婚約者がいる。
だけど、私には、棗くんと綾乃さんの間には誰にも踏み込めない何かがあるんじゃないかって気がしてしまっていた。
「それこそ私には関係ない事なのかもしれないけど、でも私はただ棗くんの事…」
……そのときだった。
突然、何の予兆もなく心臓がドクンと跳ね上がった。
それは、今まで何度も感じた事のある、嫌な跳ね方だった。
……どうして、こんなときに。
「…純…どうした?」
「……何…でもな…い」
どうしよう。
どうしよう。
薬、飲まなくちゃ。
発作薬飲んで、発作を抑え込まないと。
こんなところで発作を起こしてしまったら……。
「…どうしたんだよ。顔色悪いけど…」
「ごめん棗くん。私、先帰る」
「は…?帰るって…」
薬を飲むにしても、棗くんの前では絶対に飲みたくない。
ここで薬を飲んだら、確実に棗くんに病気の事がバレてしまう。
「……ちょっと…急用思い出して……ごめんなさい」
最後はもう言葉が途切れていた。
私は胸を抑えながら、棗くんの前から素早く立ち去った。
……私の名前を呼ぶ棗くんの声だけが、苦しみの中でもちゃんと聞こえていた。
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