溺れて、潰れていく心

8/17
前へ
/36ページ
次へ
ずっとずっと、密かに想い続けていた彼女に触れた瞬間、もう後戻りは出来ないと悟った。 理性なんか、あのときの俺の中からは消えていた。 彼女の柔らかい髪に触れ、頬に触れ、次第に互いに見つめ合い、唇が重なる。 関を裏切る行為だという事は、当然わかっていた。 わかっていたけれど、止められなかった。 「……好きだ」 弱っている彼女を抱きながら、自分勝手な愛を囁く。 卑怯で、狡くて、あざとい自分。 「……名前で、呼んで」 「……綾乃……」 何もかも失ったって構わない。 綾乃さえいてくれれば。 彼女と過ごす時間さえあれば。 綾乃にとっての一番が関だとしても、綾乃の心の片隅に自分が居続ける事が出来るのなら、それだけで幸せだと思えた。 それが俺の幸せなんだと、そのときは本気で思っていた。 二番目でいい、だなんて浅ましい言葉。 ほとんどの人が到底共感出来ないようなその言葉に、自分だけは理解を示していた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

397人が本棚に入れています
本棚に追加