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パーフェクトな人間は、決して恋人の友人と関係を持ったりはしない。
寂しいときに、恋人以外の男を頼ったりなんかしない。
だけど、そんな彼女の裏の一面を知らない関の前では、綾乃は完璧を装っているんだろう。
罪悪感なんか、微塵も表には出さず。
そして俺は、自分と同じ狡さを持つ彼女に惹かれてしまった。
パーフェクトなんか、最初から求めてはいなかった。
そんな狡さや計算高さも、彼女の魅力の一つになっている。
いつからか、本当の俺を理解してくれるのは綾乃しかいないと思うようになっていた。
「……ねぇ、棗くん」
「ん?」
名前を呼ばれて彼女の方を見ると、彼女は何故か今にも泣きそうな顔で俺を見ていた。
「…何?」
「……お土産、ありがとう。嬉しかった。……めちゃくちゃ嬉しかったよ」
そう言って、彼女は笑った。
「………」
その笑顔を見た瞬間、俺は気付いた。
彼女の必死さが自分に伝染したんだと思っていた。
だから、バスの中で渡せる土産をわざわざ今すぐ渡す気になった。
でも、それは違っていたんだ。
俺はただ、この笑顔が見たかったんだ。
俺に向けられるこの屈託のない笑顔を、求めていたんだ。
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