純粋無垢な、その存在に

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……正直、そういう反応されると本当に困る。 どういう顔をすればいいのかわからなくなる。 だって彼女のその姿は、どこからどう見ても俺からガムを貰った喜びを隠し切れていない様子に見えたから。 「食わないの?」 「……後で食べるの」 彼女の一挙一動が、俺にとってはあまりにも新鮮過ぎて。 つい、バスを降りるのも忘れて見入っていたくなる。 たったガムひとつであんなにも喜んでくれる子なんて、他にいるだろうか。 ……いや、いないだろ普通は。 なんて自分で自分に心の中でツッコミながら、俺は何とか彼女から視線を外してバスを降りた。 …と思ったら、何故か俺のすぐ後ろからバタバタと足音が聞こえて。 振り向くと、彼女も一緒に俺と同じバス停で降りてしまっていた。 「………」 何でここで降りてんの?この子。 まさか降りる場所、間違えたわけじゃ……ないよな。 「……何してんの?」 「こ、これ!バスの中でお礼に渡そうと思って…」 慌てた様子でそう口走った彼女の右手に視線を向けると、そこにはキャンディーがひとつ、握られていた。
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