一生、この日を忘れない-2

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「……でもマジで、早く来ておいて良かった」 「え?」 聞き取れないような声で棗くんが何か呟いたから聞き返すと、棗くんは「何でもない」と素知らぬ顔で答えた。 「……ちょっと早いけど、花火見える所まで移動するか」 「あ……うん」 棗くんは私に背を向けて歩き出した。 その背中を追いながら、ワガママな欲望が顔を出す。 浴衣姿…一言でいいから、何か言ってほしかったな。 可愛いね、なんて言ってくれなくてもいい。 だけど、『今日浴衣着てきたんだね』くらい欲しいだなんて思ってしまう。 棗くんは普通の私服姿。 棗くんの後ろを歩く私は、張り切って浴衣姿。 わかってる。 棗くんが私の浴衣姿に何の興味もない事くらい。 だけど一切浴衣に関して触れられないと、自分の張り切りが余計惨めに見えてくる。 ……やっぱり、私服で来た方が良かったかな。 そんな事を思いながら歩いていると、少し前を歩いていた棗くんの足がぴたりと止まった。 そして、振り向いた棗くんと思いきり目が合った。
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