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「……ごめん」
「え?何が……?」
突然棗くんが申し訳なさそうに謝ってきたから、私は面食らってしまった。
棗くんの言葉が返ってくるまでの間に、頭の中ではいろいろな妄想が駆け回っていく。
ごめんって、何だろう。
まさか、急に用事が出来たから帰らなきゃいかないとか?
やっぱり好きでもない女と花火大会に行く事は出来ないとか?
どうしよう、そんな事言われたら私……。
「歩くの、速かっただろ。ごめん、ついいつもの感じで歩いてた」
そう言って棗くんは私の方へと戻ってきてくれて。
私のすぐ隣に立ち、至近距離でまた一瞬目が合った。
「……行こ」
さっきまで私の前をスタスタ歩いていた棗くんが、今は私の横で歩いてくれている。
下駄で歩きづらい私の歩幅に合わせて、歩いてくれている。
「……歩くの…合わせてくれてありがとう」
私の『ありがとう』に対して、棗くんは何も答えなかった。
だけど、私にはわかるんだ。
隣の私から敢えて視線を外して歩く棗くんの、照れ隠しが。
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