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だから、私からすればこのタイミングでの弟さんからの電話は凄く有り難かった。
「帰ろ?棗くん」
「……こんな事になるなら、車で来なければ良かった」
「え?」
「……いや、何でもない。……じゃあ、行こうか」
棗くんがキーで車のロックを解除し、私は助手席に乗り込んだ。
車に乗ってからもまだ少し浮かない表情の棗くんを見て、私はニヤニヤしていた。
「棗くん、そんなに海見たかったんだね。何か可愛い」
まるでおもちゃを取り上げられて拗ねている子供みたいで。
こんな一面もあるんだなって、また一つ好きが増えてしまった。
「可愛いとか、あんたに言われたくないんだけど」
「だって子供みたいで可愛いんだもん」
「……別に、海が惜しかったわけじゃないし」
「え…」
「また今度、一緒に来よう」
「………」
「約束」
運転しながら、棗くんは強引に私の右手の小指に自分の左手の小指を一瞬だけ絡ませた。
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