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「ねぇママ!デニムの色、どっちがいいと思う?青か黒か。それかグレーもあるけど…」
「そうねぇ……グレーがいいんじゃない?」
「やっぱりそう思う?じゃあグレーにしよ!」
鏡の前に立ちながら、何度も服を合わせては脱ぎ、またどこからか引っ張り出してきて合わせては脱ぐ。
「何かモノトーンな感じになっちゃったけど、いいかな」
「うん、いいんじゃない?いつもより大人っぽくて素敵だと思うけど」
黒のカーディガンにボーダーのタートルネックのニット。
それに薄いグレーのスキニーデニムを合わせて、足元は黒のハイカットのスニーカー。
髪は気合いが入りすぎないように、緩く後ろに一つに纏めた。
そして、左の手首にパパに今年の誕生日に買ってもらったシルバーの腕時計をつけてコーディネートは完成。
「……変じゃないよね?」
「可愛いわよ大丈夫」
病院で綾乃さんと遭遇してしまったあの日から時間は流れ、ついにこの日を迎えてしまった。
……私にとっては、棗くんとの二度目のデートの日。
「でもバスケなんて、純、ルールとかちゃんとわかってるの?」
今朝私と一緒に早起きして今日のコーディネートを考えてくれたママが、心配そうに私の顔を窺った。
「そう!そう思うでしょ?だから私、棗くんと話を合わせれるようにめちゃくちゃバスケの事勉強してみたんだ」
わからないなら、わかるようになればいい。
とても単純で当たり前の考えに辿り着いた私は、この2~3日は正直受験勉強そっちのけでバスケット入門書のページを開いていた。
「ちゃんと調べたの?さすがね~」
「だって、せっかく棗くんが誘ってくれたんだから、目一杯楽しみたいし」
棗くんと同じ気持ちを共感したい。
同じものを見て、その興奮を分かち合いたい。
そのための勉強なら、少しも苦なんかじゃない。
「何時にどこで待ち合わせしてるの?」
「それが待ち合わせ場所はまだちゃんと決まってなくて……一応10時までに家出れるように準備しておいてって」
部屋の壁に掛かっている時計に視線を移すと、棗くんが言っていた10時まであと5分だった。
…と思った次の瞬間、マナーモードを外していたスマホがピリリ…と短い音でメッセージの受信を知らせた。
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