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また今度、この海に一緒に来る約束。
そんな約束、出来ない。
出来ないのに。
「……棗くん」
「ん?」
「……私……」
棗くんの事は諦めるから。
もう、自分の気持ちを押しつけるような事はしないから。
棗くんの次の恋を、ちゃんと応援出来るように頑張るから。
だから、約束は出来ないって言わなくちゃ。
「……やっぱり、何でもない。……約束ね」
心の中で巡る思考とは真逆の事を口にして、絡ませた小指にキュッと力を入れて離した。
約束なんか出来ないのに、出来ないとは言えなかった。
「……弟さん、棗くんの事よっぽど信頼してるんだね」
「信頼とかじゃなくて、ただ両親に練習付き合うの拒否されて車も貸してもらえなかったから俺に泣きついてきただけだよ」
面倒くさそうに言いながらも、優しい棗くんは弟さんの事を放っておけない。
私は多分、棗くんのそういう不器用な優しさに惹かれたんだと思う。
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