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【支部長】
「やあ、相模くん」
資料室の閉架に入って彼の顔を覗き込むと陰気な声が返ってくる。それがたまらなく嫌で、「またサボりかい?」と嫌味が出た。
「……支部長こそ、あまりサボってると世界を滅亡させる破目になるよ」
突拍子もない言葉に「経験談かい?」と返す。浅間からその辺の事情は聞いている。彼がこの絶望の元凶だと。彼は捕虜だ。我々に捕らえられ情報を提供し、有無を言わさず僕らのために戦う捕虜。
「そんなことはどうでもいいんだ。君に尋ねたいんだけど。悪鬼の四肢を人間に移植することはできると思う?」
しばらく無言だった。考えているのだろうか。またしばらく待って、ようやく彼は口を開いた。その言葉は大方予想通りで僕の考えを裏付ける証拠となる。
「できたとしても徐々に悪鬼に体を蝕まれるに決まってる」
また浅間は親友を殺さなくてはいけないのだろうか。浅間にとっての親友であり、僕にとっても友人だった。不思議と悲しさはない。当たり前だ、自分でやったのだから。手を下すのも僕であるべきだ。でも、浅間はそれを許してはくれないのだろう。違う、僕がそれを望んでいるだけだ。浅間はそこまで優しい人間ではない。
「……垣内司令官の中の悪鬼なら安定してるよ。彼は抑えつけてる、自分の中の悪鬼を」
見かねたようにかかる声に安堵より呆然とする。あの善ちゃんだぞ? 浅間にすら怯えていた善ちゃんが――
「彼、君が思ってるよりしぶといと思うよ。俺が既視感を感じるくらいにはね」
★
荻野さんは常にいろんな方向から意見を考えたり求めたりする人。 相模さんはどちらかといえば目先目先よね。
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