突然の悲劇

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 9月中旬のまだ残暑のきつい日の午後、 店の仕事が少し落ち着いたので、 彰悟は回覧板を持って同じ商店街にある喫茶店『メロディー』へ向かった。 平日のこの時間帯は向こうも忙しくないだろう。 「こんにちはー。」 カウンターの奥へ声を掛けると、 マスターの娘の真理がニコニコしながら出てきた。 「真理ちゃん、回覧版持ってきたよー。」 「彰悟君こんにちは。ねえねえ、 今ちょっと時間ある?」 「少しなら。なに?」 「秋向けのデザートをいくつか試作してたんだけどさ、 色々迷ってて。 ちょっと試食してもらって感想聞いてもいい? 今日は2種類作ってあるんだけど。」 「いいよ。それじゃ、ちょっと店にメールするね。」 カウンター席に座り、 母に少し戻るのが遅くなると連絡する為、 スマホを取り出した時、 テーブル席の若い男女が目に入った。 『あ、あいつじゃん。』清掃会社の彼だ。 今日はいつもの作業着ではなく、 白いTシャツと洗いざらしのジーンズ姿で、 いつもより幼く見える。 いつも目深にかぶっている帽子も無いので、 形のいい卵形の輪郭にきりりと上がった眉と あの猛禽類を思わせる大きく強い目がよく見える。
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