父と母の悲恋

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綾乃の父は封建的で一家の長たる父の言いうことは絶対であるという 古風な男であった。 家よりも都市部にある短大に進学した綾乃は、 それが普通ではないということに気が付いた。 また、同じ短大で特に親しくなった野澤晴香は、 大手商社勤務の父親の転勤に伴い海外や東京で都会暮らしをしてきたので、 綾乃の家の話を聞くたび『いったい何時代の話なの』と眉をひそめるのだ。 ある日の放課後、 晴香が綾乃を自宅に誘った。 晴香の母親は海外の駐在員妻をしている間に洋菓子作りに目覚めて、 しょっちゅうケーキを焼くのだそうだが、 あまりに頻繁で家族は少々食傷気味なのだそうだ。 「あんまり言うとしょんぼりしちゃうのよ。 今日も『何とかタルト』を焼くって朝張り切っていたから、 うちで一緒に課題しながら食べて行って。 よかったら弟さんにも持って帰ってあげて。 食べ盛りの高校生でしょ。」 晴香の家にお邪魔すると、 玄関にびっくりするほど大きい靴が二足並んでいる。 「あれ?兄貴がだれが連れてきてるみたい。 この足の大きさだと高校のバスケ部の友だちかな。」 晴香について居間に入ると、 はたしてソファーに大男が二人並んでケーキを食べていた。
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