父と母の悲恋

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山城憲悟の方にも胸算用があった。 二年前に地元の神社の祭りで良家の子女が選ばれる 斎皇女(いつきのみこ)役を務める綾乃を見て一目惚れしたのだ。 そしてなんとしても手に入れたいと強く望むようになった。 しかし、憲悟と綾乃の間にはいかんせん接点が無かった。 社交の場で見かければ憲悟は綾乃の姿を目で追うが、 年が離れていることもあり綾乃の方ではまるで眼中に無いのがわかる。 10代の彼女からすれば顔見知りのおじさん程度、 もしくは認識すらしていないかも知れない。 また、憲悟は周りの男たちが綾乃を物欲しそうに見ていることにも 気付いていた。 清楚な美しさに最近女らしさも加わってますます魅力的になってきた綾乃を、 誰かに掠め取られる前に手に入れなければ。 そう一人で焦っていた憲悟の耳に、 綾乃の父親の会社の業績が思わしくないとの情報が入ってきた。 この機を逃す手はない。 融資をチラつかせると桂木はすぐに食いついてきた。 山城の両親の方は、 最高学府を優秀な成績で卒業した憲悟の仕事の手腕にも一目置いており、 旧家でとおる桂木家から見目良い嫁が来るとなれば文句は出ないだろう。
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