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では貯金をせずに思い出や為になる使い方をするにはどうすれば良いのか、と雅之はさらに悩むことになった。
旅行にでも行こうか?
しかし一緒に行く相手がいない。
美味しいご飯でも食べに行くか?
味音痴なので無駄遣いになるだけだ。
車を買うか?
今の車はまだ買ったばかりで新しい。
雅之は新しい案を幾ら考えても、否定的な意見が湧き上がり、中々一歩を踏み出すことが出来ない。
こういうところが女の子に好かれない理由なんだろうな、なんて自虐していた雅之だったが、悩みに悩み数日後、ついに納得のいく答えを導き出す。
今までと何ら変わらない休日。
今日はパチンコに行くか、競馬場に行くかと考えた挙句、大きなレースがあるから競馬場にしようと決めて、駅までの道を歩いていた時だった。
ずっと昔から住んでいるこの土地も、面影が無くなってきたな。
と、早歩きの雅之が球技禁止の張り紙のある公園の中を通り抜けると、そこには新しく建てられた住宅が綺麗に並べられている。
雅之はその若々しい家の間を抜けていく。
ふと横を見ると休日に出掛けようとする家族の姿があり、右手で子供を抱えながら、左手で綺麗な嫁と手を繋いでいる男性がいて、そんな仲睦まじい姿に羨望の眼差しを向けながら、雅之は考えていた。
いいなぁ、と。
人は自分に無い物に憧れる。
雅之にとってそれらはまさしく自分に無い物であり、憧れの存在。
その憧れの背後にある新築の家を改めて見た時、雅之は自分が最も必要とする物に気付いたのである。
そうだ。家を買おう。
雅之の決断は彼の過去の人生の中で一番と言っても良い程明確なものであり、その大きな決断が雅之の心を支配した。
雅之は小さい頃から今まで、アパートで育ってきた。
実家暮らしをしている時も、一人暮らしを始めてからも、ずっとアパート暮らし。
一軒家での生活を未だ知らない。
隣や上や下に誰もいない、完全に自分だけの空間。
広い部屋に広いお風呂。
使い易いキッチン。
想像が止めどなく膨らむ。
それらに囲まれた生活に、子供の頃ずっと憧れていたではないか。
小さな頃も同じような羨望の目をクラスメイトに向けていたことを思い出した雅之は、さらに考えた。
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