3/5
前へ
/7ページ
次へ
「お前いつまでこんな場所で寝てんの」 「うるさい」 出会った頃より低くなった声が耳にジワリと残る 気まぐれにやって来るこの男は 幼馴染みというやつで 私と同じくこの町から出られなかった人間だ その理由は町への執着もあれば 私達がここから出たとしても 一体どこへ行けばいいのか 頼る身内も大人も居ないというのに ろくに学も無くて 当時は働ける歳でもなくて お前達に居場所は無いと 見放された私達 「まだ待ってるのか?」 「........」 「こうして俺が来なきゃずっと一人じゃねぇか」 「いいの、放っておいてよ」 「出来たらこんな雨の中会いにこねぇよ」 「そっか」 「おう」 ポツリポツリとバケツに落ちる雨水のように言葉を落とす 「やっぱりお兄ちゃんはこの町には帰って来ないかな」 「さあな、連絡も何も無ぇんだろ? ま、今じゃ連絡の取り用も無いがな。」 「うん」 曲げた膝に顔を埋める 男は私が腰掛ける軒下までやってきて さしていた傘を閉じ隣に胡座をかいた 「まあ、気が済むまで待てば 俺もお前を気が済むまで待ってやるからよ」 傘の水滴をババババと振り落としながら男は言う 「気が済んだら何処かへ行っちゃうの」 「さあな、けど、少なくともお前が此処で骨になる時までは待てると思う」 「何それ」 「だってこのままお前の兄貴が迎えに来なかったら 死ぬまで此処で暮らすんだろ?」 「わかんない けど、お兄ちゃんが迎えに来るなら 家以外此処しか思い浮かばないの」 「なる程な」 「ていうか、先に骨になるのはアンタよ 女の方が男より平均寿命長いんだからね」 「そんなの平均だろうが しかもその理由知ってっか? 女は自分の孫を見る為に本能で長生きするとか言うんだぜ」 「そうなんだ」 へえ、と気持ちが篭らない声が ポチャンと雨水と共に落ちた
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加