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「あれ?」
昼間に降った雨も上がり、大学のサークル活動のための絵具や筆、スケッチブックその他もろもろの買い出しに行ったその帰り。何も持たずスタスタと歩いていた恵理子が、道の途中で突然立ち止まった。恵理子のうしろをパンパンに膨らんだビニール袋を抱えて歩いていた正樹はそのとなりまで歩いていき、彼女の視線をたどる。
「……迷子かなぁ」
広々とした公園の、滑り台の下。黒々と光るランドセルに手足の生えたような「それ」は、はたから見ればダンゴムシだ。そのダンゴムシの背中を正樹がぼんやりと見ていると、恵理子は何も言わずに、公園の周りに植えられた生垣の間からダンゴムシの方へと走っていった。
彼女はダンゴムシの所まで駆けていくと、それのうしろでしゃがみ、ちょいちょいと肩を叩いた。振り返った小さな顔は以外にも涼しく、迷子ではなかったのかと思う。
「ねぇねぇ、君さ、どこから来たのー?」
「あのね、おっきい木のあるまちから来たの」
「……他には?」
「あとね、おいしいドーナツやさんもあるんだよぉ!」
公園のベンチに荷物をおろしていた正樹を振り返り、恵理子は「この子となり町から歩いてきたみたい」と声を張り上げた。
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