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「えぇ、となり町から?」
となり町からこの公園まで、場所にもよるがだいたい四キロくらいある。そこを、ランドセルに手足の生えたような歳の子供が歩いてきてしまうのだから、よほど好奇心が旺盛なのだろう。正樹は呆気にとられたままでいた。
「何しに来たのー?」
恵理子が間延びした優しい声で聞けば、男の子は「あそびにきたんだけどね、あのね、アリを追いかけてたらね、しらないところにきちゃったの」と平然と言う。
「……って、やっぱ迷子じゃん」
「すごいね、今の小学生って四キロ普通に歩いちゃうんだね」
恵理子が心の底から感心したような声を上げた。――アリを追いかけて四キロ。あの小さな体じゃ、ランドセルもかなりの重さに感じるはずだ。
「いやいやいや、普通に歩いちゃうわけじゃないと思うよ?」
正樹が呆れたように言うと、迷子の男の子はこちらを見て「ぼくね、カブトムシね、いま六匹かってるんだよ」と自慢げに言った。
「すごいねぇ、六匹も飼ってるの?」と、恵理子が柔らかい笑みを浮かべて言う。男の子は依然正樹の方を見たまま、「うん」と、たいして表情も変えずに大きく頷いた。
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