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「……うーん、どうだろうねぇ」
濃い色の葉っぱが、微かな音を立てて揺れる。
子供たちのはしゃぐ声が、風に乗って聞こえる。
突き抜けるほどに蒼い空には、小さな入道雲と一直線に伸びる飛行機雲が浮かんでいる。
「……いた、かな」
そう言うと、男の子はくりくりとした目を真っ直ぐに向け、「いまはいないのー?」と言う。
「〝居ない〟からね、もう」
「ふぅん」
多分分かってないな、と苦笑を漏らす。別に分からなくてもいいことだ。
「あ、おねーちゃん」
男の子の声で視線を前に戻すと、ジュースを両手に抱えた恵理子が小走りで来ていた。本当によく走り回っているよな、と正樹は苦笑する。大学でもそうだった。恵理子とすれ違う時は、彼女はだいたい教材を抱えて走っていた。慌てているのか急いでいるのか習慣なのか。――多分真面目なんだろうな、とは思う。
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったんだけど」
はい、と恵理子は抱えていたジュースを配る。男の子にはオレンジジュース。正樹には炭酸。恵理子はお茶。――正樹の好きなものを知っていて買ってきてくれたのか、たまたまなのか。不意に頭を横切った疑問と同時に、正樹はなぜかサークル活動終わりの美術室を思い出した。「それで、この子を〝還す〟方法なんだけど、……」
* * *
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