0人が本棚に入れています
本棚に追加
「まー待て待て、アテはあるんだ。そろそろ……っと、来た」
御手洗が指差す先には、おそらくは一ミリにも満たないほどの細さの"糸"が張ってあった。糸の片方は彼の小指に繋がっており、親指と小指を立てて受話器を模る。親指を耳の穴にあてると、「コール」と一言唱えて術を発動した。
「盗聴か」
「良く分かったな。迷彩結界は使っているのに」
「そういうものには鼻が利くんだ」
「そりゃあ便利なことで。ほら、お前にも」
御手洗は糸を枝分かれさせて生やし、それを黒鉄に渡す。黒鉄は見様見真似で小指に糸を結び、受話器を模って耳にあてた。
「バイパス、コール」
耳にあてた親指から、雑音雑じりの音声が聞こえる。声からして、先程黒鉄を追っていた二人組の会話だ。
《疲れた……。ちょっと休もうぜ》
《馬鹿、先生にばれたら殺されるぞ。比喩無しで》
《あの42番、なかなかやるじゃねぇか。評価高いんじゃねぇの》
《どうだろうな。42番っていったら、ほら》
《あー……あいつな。ついてないな、42番。黒鉄っていったっけ》
やはり番号が何かの鍵になっているようだ。そして会話を鑑みるに、自分の番号は"ついてない"番号らしい。
《あいつから"コレ"獲るのは無理だろう。補修部屋確実だな》
《さて、俺達ももう一仕事しようか。あんまり点数低いとこっちまで補修部屋だ》
《おう。……ん、これ何だ》
「やべっ」
御手洗は「オーバー」と唱えて糸を溶かすとすぐに立ち上がり、その場を離れようとする。黒鉄の方を一瞥すると、健闘を祈ると言わんばかりの神妙な表情を作って敬礼の真似事をした。
「お前もすぐ逃げた方がいいぞ! 逆探知されるのも時間の問題だ!」
「なっ、デコイくらい使っておけ!」
「そんな暇も余裕も無かったんだよぉ、文句あるか!」
黒鉄もその場を離れ、校舎方向へと走った。途中何人かの二年生と鉢合わせそうになったが、身を隠して何とかやり過ごす。しかし、これでは回復のしようがない。小規模な術――迷彩結界や疑似フラッシュバン――を使って目を誤魔化し、眩ませ、ようやく校舎に辿り着いた時には、時計は正午を回っていた。
校舎裏のボイラー室。その傍の物陰に身を潜める。腰を下ろし、地面に片手をついて大きく息を吸い込んだ。精神を安定させ、意識を心臓に集中させると、それをペンダントの裏側を通して妖精珠へと注ぎ込む。
最初のコメントを投稿しよう!