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妖精珠は他生物の意識、精神から"何か"を吸収することで、消費した力を回復する。人間が自己生成出来るその"何か"については今も研究が重ねられているが、明らかにはなっていない。
"妖力"や"魔力"、もしくはただの"力"と呼ばれ、呼称は一定ではないものの、それが人間の精神と深く結び付いているのは確かだ。深いトラウマによる幻覚は、制御を失った力が無意識化で妖精を生み出したために起こる現象であるし、俗にいう超能力者は、稀に存在する、妖精の力を借りなくとも力の放出を行なえる人間だ。
黒鉄を始め、多くの人間は凡人だ。だから力の方向性を妖精珠によって定めることで、ある程度の制御を可能にした。妖精へ自らの力を送り込み接続を創造し、力を借りて異常を操る。
その技術を一定以上の練度まで鍛え上げた者を、人は"術師"と呼んだ。
緑色の発光が治まる。黒鉄の首にぶら下がった妖精珠は、どことなく満たされた様に見えた。黒鉄は小さく息を吐くと、即座に索敵の術を仕掛け始める。
「(力を纏い、全方位へ満遍無く配置)――広がれ」
円が足元に広がった。外側から根の様に生えた光の爪が地面を侵食し、ぐねぐねと押し進む。ある程度広がると、今度は隆起して三次元目の索敵を開始した。
「塗り潰し、捉え、捕らえろ」
先程までの索敵のみの術とは異なり、今度は触れたものを手あたり次第に光線で焼く、攻撃的な術だ。サイレン程度の小型妖精ならば、暫く再生成を防ぐことも出来る。
爪が校舎外壁に這い回り、屋上へと切っ先をかけたその時だった。
「派手にやるじゃねぇか。気に入ったぜ?」
煮えたぎる溶岩の様な低音。その声の主は光の爪を"掴み、握り潰した"。
「ッ!」
黒鉄は術を解除し、声の主から距離をとる。全身の細胞が危険を告げている。まともにやり合えば、命は無い。そう、本能が警鐘を鳴らしている。
「いーい判断だ」
地上十メートルはあるだろう。屋上から飛び降りたその男子生徒は、腕につけた妖精珠を掌で覆うと、とても嬉しそうな声で命令を飛ばす。
「ぶっ壊せ、ぶっ潰せ!」
生まれた爆発は指向性をもって地面へと向かい、落下の衝撃を和らげながらも、容赦のない破壊の奔流は黒鉄を押し潰そうとする。
「俺を護れ!」
土の下に眠っているバクテリア寄生型の妖精を叩き起こし、地面を持ち上げて盾にした。量を調整することで形状を整え、ドーム状にして身体を覆う。
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