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校長は演技がかった所作で両腕を広げ、支配者染みた不遜な笑みを浮かべる。
「我らはさらに進化する。彼らと共に」
野心家の囁き。扇動者染みた、心臓を掴むような声色。鼓動が高鳴り、言いようのない高揚感が湧き上がる。
「君達にはその先兵となってもらいたい。人類は今、更なる発展の分岐点にいる。この機会を逃さず、妖精を理解することが、君達の使命だ」
「しかし」と、校長は続ける。時を同じくして、生徒達の周りに突如、長身の女性達が現れた。壇上にいる女性と瓜二つ――否、寧ろ鏡写しの姿――で、彼女らが同種の妖精であることを理解するのは容易だった。 彼女らは校長の制御下にあるようで、一糸乱れぬ統率された動きで生徒一人ひとりの傍に佇んだ。
「妖精に関して、我ら専門家ですら理解し切れていないところがある。不測の事態もありえることは、入学試験時に配った誓約書を読んで理解し、覚悟した上でこの場にいるのだと思う」
女性型の妖精は、一枚の円盤を生徒に渡した。大きさは直径五センチほどで、ワッペンのように裏側には安全ピンが付いており、表側のつるりとした面には二ケタの番号が書かれていた。
黒鉄にも同じものが渡される。番号は42となっていた。
「術師としての技量も、実技、座学共にある程度は見させてもらった。見込みの無い人間はここにはいないことは確認済みだ。――しかし、まだ私達は君達を信じ切れない。こちらとしても出来る限り死人を出さないようにしたいのは山々だが、君達が無能では守り切ることは出来ない」
妖精達はいつの間にか消えていた。空気の流れが一所へと向かい、校長の指へと吸い込まれていく。巨大な宝石のついた指輪が、鈍く輝くのが遠くからでも見えた。
「明日八時半、通知を行なう。今日の内に携帯の受信設定を終えておくこと」
男子寮は島の東側にある。建物はコンクリート製で、周りには妖精避けの金網が張り巡らされていた。金属を好む妖精もいるが、ここは森林が近く、金属を嫌う妖精が圧倒的に多いのだ。
解散した生徒達はそれぞれに宛がわれた自室へと帰っていく。黒鉄もその一人だ。階段を上り、自分の部屋を見つけると、合格通知と一緒に送られてきた識別カードをリーダーへと通した。
部屋は平均的な1K。部屋には荷物がすでに運び込まれており、段ボールが山積みになっている。
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