01 戦場

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 黒鉄は段ボールの山を解体していく。一つ一つ丁寧にカッターナイフで封を切ると、蓋を開けた箱を床に並べた。 「それじゃあ、手伝ってくれ。配置は前に言った通り」  ペンダントを目の前に掲げ、裏側から指でコツンと弾く。翡翠色の発光と、ミントの芳香が部屋を満たした。  持ち込んだミニサボテンの肌が泡立つ。不定形の塊は緑色に輝き、徐々に不安定な脈動を発する。そうして光となって四散すると、小さな子供の姿へと変化した。その姿は噺に出てくる妖精そっくりで、虫の薄羽が背中についていた。  彼ら――疑似妖精達は荷物の配置に取り掛かった。本棚を組み立て、本を順番に差し込んでいく。衣服はクローゼットに仕舞い、パソコンをデスクにゆっくりと降ろして配線を始めた。  術がある程度正しく作動したのを確認すると、黒鉄は備え付けのベッドに身体を沈める。この手の術は初めて使ったのだが、思いの外上手くいったな、と彼は自賛した。このペンダントのお蔭というのは少し気に入らないが、そこは仕方のないことだ。 「(このバッジ……)」  入学式で貰ったバッジをまじまじと眺める。学生番号かとも思ったが、配布された学生証とは一致しなかったから多分違うだろう。となると、何かの組み分けか。親睦を深めるためにゲームでもやらせるつもりか。 「まぁ、明日になれば分かることか」  荷物の配置は終わったようだ。黒鉄はペンダントを掲げ、一言「お疲れ」と口にする。疑似妖精は空気にかき消え、サボテンの発光も治まった。  ベッドから降りて、水道を確かめる。術の余波が妙な妖精を呼び寄せていないかの確認だ。水が変異していて知らずに飲んでしまったりしたら、最悪、命にかかわる。  どうやら大丈夫なようだ。妙な臭いも変色も無い。黒鉄は掌で水を受け止めると、舌を湿らすように軽く舐めた。味の方も問題は無さそうだ。 「どうするかな」  スケジュールでは、授業開始は明後日から。つまりは今日のこれからと明日丸々一日は自由行動ということになる。が、このバッジの件でおそらくは明日は潰れるだろう。となると、自由に動けるのは実質、今しかない。 「ちょっと見て回るか。――どれだけ変わっているかも見たいし」  小さな鞄を肩にかけ、玄関から外に出る。目指す場所は決まっていた。
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