プロローグ

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 彼は良く、常識は身につけてから捨てる物だと言っていた。  それは常識に囚われるなという意味に近い。  しかしそれは、非常識、つまり無知であれというのとは違う。  知った上で賢くズラす。  無知と、賢くズラすとには、大きな相違点がある。  そこには時間を費やすという行為の有無が簡単に挙げられる。  その差を論じることに意味は無い。  彼、つまり古里井ヒュウが言う、常識は身につけてから捨てる物、というのは、簡単なようで無意識にそれを行うのは思いの外難しい。  「脳」がいい例だと彼は言っていた。  脳は頭の中に存在する。  それは皆が知る事実。  確かな情報だ。  おそらくそれは正しい情報だろう。  古里井ヒュウは言った。  本当に脳、つまり人間の意識を司る器官が頭の中にあるのか、と。  数え切れない回数、脳が頭の断面図で、頭蓋骨内のほとんどを埋めている画像や映像をさまざまなメディアで見てきた。  しかし、実際に脳みそを見た人間はどれだけいるのか。  どれだけの人間が、それを証明した人間の名前を知っているのか。  脳みそが意識を生み出していると、証明できる人間がどれだけいるのか。
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