プロローグ

5/6
前へ
/135ページ
次へ
 明らかに先の二発とは違う。  三発目で間違いなく意識が消えた。  頭部は頭部でも、より後頭部の近く。  あなたは知人に伝えるだろう。  人を殺すなら、後頭部を潰せと。  しかし、前回のシンギュラリティである第三の技術的特異点を迎えてから、人間はそれだけでは死ななくなった。  人工知能の発展の結果、人間は簡単には死ななくなった。  死ねなくなった。  僕は戸瞬あくと。  僕には、「人を殺したい」と言ってきた知り合いがいる。  正直驚いたかな。  彼女は……いや、彼女の魂は、僕が見る限り純粋で綺麗な形をしている。  「人を殺したい」と言ってきたその少女の魂は、約半世紀前まで遊びの王道として君臨していた四つのマークと13種類の数字を組み合わせたカードゲームに登場するマークと同じ形をしていた。  今では、そのカードゲームは、あらゆるゲームに必勝法が存在し、遊びとしての価値は皆無となった。  そのカードゲームでハートと呼ばれるマーク。  そのマークと同じ魂の形をしている少女が人を殺したいと言った。  その瞬間、僕の中で彼女の魂は、ハートの一番鋭利な部分が粘性を持ちながら真っ直ぐ下に垂れていった。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加