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「そうですね……。公爵様と初めてお会いしたのが十二の時で、その年のうちに侍女見習いとして公爵家のお屋敷に入りましたから、もうかれこれ十四年になりますか」
「え?」
それを聞いたシェリルは文字通り目を丸くしたが、リリスとエリーシアが思わず会話に割り込んだ。
「じゃあ十二歳から?」
「何でそんな年から、れっきとした子爵令嬢が、侍女見習いなんてやっているんですか!?」
そんな三人に向かって、ソフィアは苦悩する表情を見せた。
「少しでも早く借金を返済したいのと、少しでも公爵家のお役に立ちたかったからです。でもそんな年端もいかない小娘が仕事をしたいと言っても、周りの迷惑になるのが精々。でも公爵夫妻は私と妹を屋敷で引き受けてくれて、侍女仕事の傍ら必要な礼儀作法や教養を叩き込んでくれて、妹は良い縁談まで紹介して貰って、今では男爵夫人です。もう少しでもお役に立ちたいどころか、更にお世話になってしまうなんて、この有形無形の恩を、どうやって返せば良いのやら」
如何にも悔しげに顔を歪め、握り締めた拳がプルプルと小刻みに震えているのを見て取った三人は、思わず顔を見合わせてソフィアを落ち着かせようとした。
「え、ええと、ソフィア?」
しかしそんな周りの様子など目に入らない感じで、ソフィアの訴えが続く。
「屋敷の中には、私同様に公爵家に対して深い恩を持つ方が何人も存在していまして、そんな人間達で集まってどうやったら公爵家にご恩返しができるかと、日々議論しておりました。ですがそれ程のご厚情を受けなくても、屋敷に仕えるものから領地の下々の者まで、例外なく公爵家の皆様が慕われているのは、ひとえに公爵様の高潔さと鋭敏さ、奥様の慈悲深さと高貴な佇まいが、何もされなくても事ある毎に滲み出ている故で!」
「分かった、分かったから、ソフィアさん。少し落ち着きましょうね?」
「エリーシアさん。それだけではなく、その他諸々を含めましてあのお二方が私の理想なんです!」
「はい。ソフィアさんの話しぶりから、良く分かります」
「公爵様の養女になったエリーシアさんには、きっと分かって頂けると思っていました!」
勢いに負けたエリーシアが思わず同意を示すと、ソフィアは瞬時に顔を輝かせて、主人夫妻を賛美する言葉を延々と並べ立て始めた。
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