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恐怖のあまり泣き叫んでいる妹を見て、エルセフィーナも手足をバタバタさせて抵抗すると、彼女を抱えていた男が盛大に舌打ちする。
「ったく、うるせぇな。手と口を縛るか?」
「奥方と娘を捕らえたら、騒ぎになる前にとっとと引き揚げろって言われてんだ。急ぐぞ」
「分かった。しかしこんなガキ、五月蠅くて手間がかかるだけだろ。なんで連れて行く必要があるんだよ」
まだ不満げに呟く男に、手ぶらで前を歩いている男が、嫌らしく笑いながら理由を告げる。
「そこはそれ、小娘じゃなきゃ駄目だって御仁も多いから、それなりに用途はあるのさ。これだけの容姿なら、それなりの金にはなるだろうな」
「ああ、なるほど。俺はごめんですがね。ガキ相手に何をしようってんだか」
そんな会話を交わして下品に笑い合う男達に運ばれながら、エルセフィーナは混乱している頭の中で、必死に考えを纏めようとした。
(借金? 確かにうちは、他の家と比べたら質素な生活をしてるかもしれないけど、子爵家なのよ? 狭いけど、領地もあるのよ? それなのに、どうして私達やお母様が、借金のカタに取られる羽目になるわけ!?)
真っ青になりながら答えの出ない自問自答を繰り返しているうちに、階段を下りて玄関ホールへと下りた。すると父親が自分を担ぎ上げている男に体当たりしつつ、悲痛な声で叫ぶ。
「待ってくれ!! 借金は必ず返す! だから妻と娘を連れて行くのは止めてくれ!」
「うっせんだよ、オッサン!!」
「ぐあぁっ!!」
「お父様!?」
男の背中側に頭があったエルセフィーナには詳細が分からなかったが、何かの衝撃音と父親の呻き声に、殴られたか蹴られたかして床に崩れ落ちたのを察する事ができた。そして憤っている少年の声が、あまり大きくないホールに響き渡る。
「何をする!! お前達の傍若無人ぶりを、陛下に訴えるぞ!?」
聞き間違えようも無い弟のイーダリスの声に、彼にまで暴力を振るわれるのではないかと、エルセフィーナは更に顔を青ざめさせたが、予想に反して周囲からは冷笑の気配が漂った。
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