プロローグ

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「ほおぉ? 威勢の良い坊ちゃんだな。いいぜ? 訴えたいなら国王陛下に『借金で首が回らなくなって、土地を取り上げられかけてます』と、窮状を訴えてみろよ? もともと貴族の土地なんて、国王陛下から管理を任されてる様なもんだろ? そんな管理不行き届きな家に、大事な領土を任せておけるかって事になって爵位は取り上げられ、領地は王家直轄領になって、あんた達の借金が丸々残るだけだ」 「……このっ」  如何にも悔しげな弟の声に、エルセフィーナは一生懸命首を伸ばして周囲の様子を窺ったが、十数人の用心棒風体の男達に剣を付きつけられている屋敷の者達は、顔を蒼白にしたまま黙っていた。それで彼女には、男の言葉が真実だと分かる。 「屋敷の中には、もう売っぱらえそうな目ぼしい物は無いし、どの道、今手っ取り早く金になるのは、この家では女子供だけだってことだな。利息すらもきちんと払えない、あんたが悪いんだぜ? ああ、今度はその坊主の買い手も探しとくから、次に来るまでにその生意気な口をマシにさせておけ。その方が高く売れる」 「何だと!? 無礼にも程があるぞ!!」 「若様! お止め下さい!」 「危ないです!」  言いたいだけ言ってさっさと男が歩き出し、いきり立つ弟とそれを必死に抑える周囲の姿を、その前を通り過ぎながら認めたエルセフィーナは、とうとう我慢できずに泣き叫んだ。 「父様! イーダ! 助けて!!」  その声を耳にしても、父親であるカールストは床に座り込んだままぴくりと僅かに肩を動かしただけだったが、イーダリスは血相を変えて男達に追い縋ろうとした。 「待て、お前達! 母様と姉様を返せ!!」 「イーダリス様!」 「お待ち下さい!」 「お前達、離せ!!」  そして正面玄関のドアが閉められ、涙で滲んだ視界の中から揉み合っている弟達の姿が消えると、抱き上げられた時と同様に乱暴に地面に下ろされたエルセフィーナは、目の前の馬車に、いつの間にか恐怖の余り気を失っていたらしい妹が、押し込められるのを見た。 「ネリア!」 「アルメリア! 大丈夫!?」 「ほら、お前もさっさと乗れ」  馬車の中から、母親の狼狽し切った声が聞こえてきたと思った瞬間、エルセフィーナも突き飛ばされる様にして、狭い馬車に乗り込んだ。すると予想通り、気絶したままの妹を抱きかかえた母親と対面する。 「ソフィア、怪我はしていない?」
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