プロローグ

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(夜なのに、通行人がいて助かったわ。あの人がちゃんとイーダを介抱してくれるなり、屋敷に連絡を取ってくれれば良いんだけど……)  取り敢えず弟の事は何とかなりそうだと安堵し、放心状態で母と妹の横で座り込んでいたエルセフィーナだったが、すぐにまた馬車の外で新たな喧騒が沸き起こった。 「何すんだてめぇ!?」 「悪いが、その馬車の中を検めさせて貰う」 「ふざけんな、皆、やっちまえ! ……ぐあぁっ!!」 「すまないな。我が主の命なのでね」  何やら揉める声が聞こえてきた後、勢い良く馬車が止まり、エルセフィーナは何事かと顔を強張らせた。それから滅多に耳にした事が無い剣の打ち合う音や、雷の様な衝撃音が響いて来たが、それは男達の悲鳴が続いて聞こえてきた後、すぐに消えて辺りが静寂に包まる。そして母のドレスと妹の夜着を掴んでエルセフィーナが固まっていると、静かに馬車のドアが開けられ、二十代後半の男が姿を見せた。 「失礼します。ファルス公爵家に仕えております、魔術師のジーレスと申しますが、こちらにおられるのはステイド子爵夫人と、御令嬢お二人で間違いございませんか?」 「は、はい! エルセフィーナ・ジェスタ・ステイドです。初めまして。こちらは母と妹です。二人とも気絶しておりまして、申し訳ございません」  丁重に尋ねられた為、座ったまま慌てて礼をしたエルセフィーナに、ジーレスは優しく笑いかけた。 「いえ、そのままで結構ですよ。弟殿はファルス公爵家で保護して、そちらの馬車に同乗して頂いています。幸い医師も同行しておりますので、すぐそちらのお屋敷に戻って治療致しましょう」 「あの、でも、あの人達は……」 「ああ、全員静かに寝て貰いましたから、心配いりません」 「え? 寝てって……、何で……」  いきなりそんな事を言われても、咄嗟に状況が理解できなかった彼女が口ごもっていると、ジーレスの背後から身なりの良い、彼よりは年嵩の男が声をかけてきた。 「どうした、ジーレス。御婦人方に怪我でもあるのか?」 「いえ、公爵様。気を失っておられるだけとの事です」 (公爵様って……、まさかこの人がさっき言ってた、ファルス公爵様ご本人!? そんな大貴族が、どうしてこんな所に現れるわけ!?)
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