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その夜、彼女はずっと体育座りをして、うつむいていた。人はうつの症状が酷いと、体内時計が狂って眠れなくなる。それは私も経験していたが、彼女の場合はどうやら、それだけが理由ではないのかもしれない。じっと暗闇の中でうずくまる雪のように白い少女。彼女が着ていたゴスロリ服は、周りから見えないように、血の臭いが出て行かないように、厳重にスーパーの袋に包んだ上で、燃えるごみの袋に入れた(編み上げのロングブーツは無事だったので、そのままにした)。私はうつらうつらとしながら、時折彼女を見て、また時折天井を見て、を繰り返した。私に何ができるわけではない。彼女を風呂に入らせ、緑茶を飲ませて、何があったのかを聞くくらいのことだ。とにかく、尋常ならざる事象が起きたに違いない。だが、それが何であったのかは、結局のところ彼女の説明を聞く他に知る術がなかった。
いつのまにか眠っていたらしく、目が覚めると朝の10時であった。その日は大学院のゼミの発表があったが、私はゼミを休むことにした。とてもじゃないが、そんな気分にはなれなかった。彼女は体育座りのまま眠っていた。寝るならソファで寝れば良いのにと、私は寝ぼけながら暢気なことを考えたが、何かが私を正気に戻した。それは、昨日部屋中に広がった血の臭いだった。まだどこかに血が残っているのだろうか? 私は不審に思い、部屋の中を丹念に見回した。ふと、彼女がいつも持っているヴィヴィアン・ウエストウッドの複雑な柄のポーチから、赤く染まった何かがはみ出ているのを見つけた。彼女に断らずにポーチを漁るのは悪い気がしながらも、私はその何かを手に取って引き抜いてみた。それは、白い象牙の柄のナイフだった。刃渡りは 10cm ほどで、鋼鉄製であることが見て取れた。刃に血はついておらず、柄に、べったりと血がついていた。ナイフはビニール袋に入っていたようで、ポーチを汚さない措置であったのだろうか。私は思わず飛びのいた。彼女は誰かを刺したのか? このナイフで? 彼女は罪を犯したのか?? 私は、圧倒的な孤独を感じた。私は彼女のことを何も知らない。呼吸は乱れ、鼓動は早まった。
しばらくして、彼女は目を覚ました。私はナイフを慎重にポーチの中に戻した後、何も見なかったように振舞おうと心に決めていた。面倒ごとは嫌だったし、何より、彼女が悪いことをするような人ではないと思い込みたかったのである。
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