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でも……聴かないでいられないのも、嘘になる。
「ねえ、大丈夫?」
無言になっていたからか、心配そうな彼女の声。
口元を動かして、微笑みを作る。
「うん。また、遊びに行こう」
できるだけ自然な声音で、わたしは受け答える。
同時に、休憩終了を告げるベルが鳴った。
仕事に戻り、指先を動かしながら……心のなかには、彼女の言葉がずっと残っていた。
――恋人の言葉を、待っている。
彼女の言葉に、悪気がなかったのは知っている。
だけれど、奇妙な引っかかりが、胸に生まれたのは確かだった。
そのまま午後はそつなく仕事をこなし、残業をせずに退社。
仕事は残っていたけれど、なんとなく、帰りたい気分になっていた。
彼女には申し訳ないと想いつつ、今日は帰宅することを告げる。
お大事にね、と謝るような彼女の声に、申し訳ない気持ちもある。
でも、曲を聴き続ける理由を伝えるのは、この気持ちが整理できてからにしようと想えた。
タイムカードを押して、会社のビルを出る。
玄関から見た街を行く人々は、まだまだ活気に満ちあふれている。
かつてのわたしも、そうだった。
夜だけの時間、そこには違う刺激と喜びが胸を躍らせてくれたものなのに。
――彼のライブがあった日は、こうしてよく、急いで帰ったものだけれど。
その時は、まだ、彼の活動していたハコ(ライブハウス)の近くの会社だった。
時間もある程度自由になるよう、正社員でなく、派遣社員として働いていた。
最低限の生活費さえあれば、仕事より、彼の音楽の方が大切だったからだ。
懐かしい。もう、四~五年経つという事実に、今更ながら想いをはせる。
「……なに、しようかな」
アフターファイブ。予定のない日にとって、残った時間はちょっと長い。
歩きながら、子供や親の声が耳に入る。
そちらに眼を向ければ、遊具や砂場、ベンチや休憩所などが設置された公園があった。
普段なら立ち寄ることのないその場所に、今日は意識が向く。
足を向け、夕焼けに帰宅する人々を眺めながら、空いていたベンチへ腰掛ける。
(まるで、恋人の言葉を待っている……か)
また、その言葉が胸のなかに反響する。
バッグからスマートフォンを取り出して、曲名を検索。
改めて、一覧を表示して、それぞれのアルバム名を黙読する。
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