第1章

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 そんななか、ファンとして声をかけていたわたしに、彼が耳元で囁いたのだ。  『君だけしか見えない』。  それは彼の書いた曲の名前で、すぐに「良い曲だと想うけど、どうかな」ってはぐらかされた。  鼓動が早く、焦って頭が真っ白のわたしは、ただただ頷くだけだったような気がする。  ただ、あの時から、ずっと確信を持っている。  ――私が、彼の言葉をもっと聞きたいと想ったのは、間違いなくあの言葉からだったのだと。  その後のつきあいで、あの時の熱が普通と違ったんだなっていうのも、今なら言えること。  だから、その言葉は嘘じゃないって、当時から想えた。  追いかけていきたかった。  彼の生み出すステージの熱と、その裏にある、彼のなかの心の熱を。  わたしは、彼への想いを止められず、二人だけの時間の時に想いきって告白した。  ――二人で会っている時点で、彼もわたしも、ある程度の覚悟はできていたと想うのだけれど。  彼は、あることをわたしに聞いて、受け入れてくれればと答えた。  言われた条件は、確かに考えを必要としたけれど……わたしは、受け入れた。  それを差し引いても、なお、わたしは彼の発する熱を必要としていたから。  それから、忙しいお互いの時間を合わせて、二人だけの時間を作っていった。  私は、今まで生きてきた人生で、最も満たされた時間だってよく話した。  あなたは、今までにない曲が想いついたよと、よく言ってくれた。  お互いに、一緒に過ごす時間が、大切なものだって。  そう、感じあうことができたから、私は日々をがんばることができたのだ。  様々な言葉を、あなたから聴いていた。  それは、あなたのステージで聴く、歌詞と言葉にも似ていたけれど。  違う熱とイントネーションを持って響くそれは、わたしに奇妙な興奮と幸せを与えてくれた。  毎日が、新曲を聴かせてくれる。そんな、あなたを好きなわたしにとって、とても幸せな時間。  アウトテイク集の、自分の声からも感じられる、幸せに満たされた時間だった。 「……」  なのに、その幸せな時間は、長く続かなかった。  ――別れよう。  それは、彼の口から発せられた。  わたしの口から、出す気はなかった言葉。  ずっとついていくって、そう無邪気に信じ込んでいたから。  付き合う時、彼は言った。  自分の余命は長くない。
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