第1章

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せっかく面白いものを見つけて部活を盛り上げようとしているのに呑気な後輩の姿を目撃してしまった亜塔は、三年メンバーを集めていた。場所は高校近くのファストフード店だ。 「諸君。我らが愛すべき後輩たちが奮闘しているわけだが、どうにも心配でならない。全員が受験で大変なことは解るが何とか協力してやらないか?」  亜塔はチーズバーガーを握り締めながら重々しく言った。どうにも科学部の部長になる奴はこういう言い回しが好きだった。 「それは構わないけどね。俺は指定校推薦で行けそうだしさ」  そんな呑気な意見を言うのは怪談を目撃した一人である奈良井芳樹だ。彼も例に漏れず眼鏡を掛けている。しかも黒縁で余計に真面目さを強調していた。さらに奇妙なことに、その手は先ほど来る途中で捕獲したアマガエルを入れた瓶を愛おしそうに握り締めている。 「僕もそれほど切羽詰まってないよ。というか、あの部を本当に守ろうと奮闘し始めるとは驚きだな」  芳樹の横でのんびりポテトを食べていた中沢莉音が笑う。その彼もまた眼鏡。科学部男子の眼鏡着用率は百パーセントなのだ。ただ莉音はおしゃれに気を遣うタイプで、眼鏡もどこか洒脱だ。髪形も真面目というより遊んだ形跡がある。 「そうだな。あの部の危機を招いたのは何を隠そう俺の実験音痴のせいだ。ちょっとぼんっといわせてしまったがために科学コンテスト参加が見送りになり、そのまま。いつの間にか今の好きなものをバラバラに研究するスタイルに落ち着いてしまった」  亜塔はチーズバーガーを齧りながらも責任を感じていた。現在の二年生たちは知らないことだが、科学コンテストの参加が無くなった直接の原因は亜塔にある。そして部長になったかと思えば新入生獲得に失敗。しかし言い出すことも出来ずに存続の危機を何とかしろとだけ頼んでいる始末だった。
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