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序章 HazyMoon
彼女は幸せなんだと思う。
彼女と会うことも彼女を見ることもないけれど。
いま幸せですか。
その返事は、はい、と短かくて、でも彼女の声のなかに聞き遂げた。
よかった。
それはそのときの正直な気持ちだったはずが、だんだんとわからなくなっていった。
よかったね。
そう呼びかけても答えてくれる声はないから。
彼女の幸せを妬んでいるわけでも恨んでいるわけでもなかったのに。
だれだかわからない手があたしに触れて、だれだかわからない人があたしのなかを侵して、おまえが悪い、と責め立てる。
穢されながら、あたしは救われたのかもしれない。
冷たいコンクリートの上で躰を揺すられながら、曖昧になっていた月がくっきりと目に映った。
この人は違う――
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