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この街の夜はいつもこうなのだろうか。
各々の店から漏れる明かりと外灯で、目を凝らすまでもなくすれ違う人の顔がはっきり浮かびあがる。
当てもなく歩きながらふと空を見上げた。
月が見えるとしてもかすんでいて輪郭がくっきりと見えることはないのかもしれない。
同じ輪郭が滲む現象でも、あの日とは違う。
ずっとまえ、水中に沈み見上げた月は、まだきらきらと輝いていた。
それとも、あたしの記憶が過去の月をそう美しく塗り替えたのか。
いまとなってはわからない。
目を瞬いても空の暗ささえすっきりは見えなくて、もしかしたらあたしの目が曇っているのかもしれなかった。
耳をすませば、聞きたい声は聞きとれずに、かわりに人混みにいるようなこもったノイズを感知する。
それに引きずられるように足が動いた。
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