序章 HazyMoon

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公園に入って奥に進むと、風に桜がそよいでぼたん雪のように花びらを散らす。 一週間まえまで札幌にいたけれど、一瞬、まだ札幌にいるのかとあたしを混乱させた。 桜の木が並ぶ通りに入れば、陽気な声が飛び交っている。 グループごとに敷かれたシートの間を縫うように歩いた。 東京に戻ってきたのは二年半ぶりだ。 けれど、そのときに住んでいた海沿いの街とは全然違う。 懐かしむ気持ちはまったく湧かずに、それがかえってあたしを息苦しくさせていた。 歩きながら空を仰ぎ、かすむ月が夜中をすぎたらやがて見えるだろう在り処を探した。 けれど、どこも桜の木が邪魔している。 ここでは見つからないのだ、とあきらめた矢先。 「良……じゃなかった日高先生、待って!」 そんな声が後ろから響いた直後に、あたしはだれかの背中にぶつかった。
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