序章 HazyMoon

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せっかちに聞こえて、ましてや、フルネームを必要とされるとは思わなくてあたしは少しためらった。 「ちょっと、補導する気?」 「柏木鈴亜(カシワギレア)」 女性の怪訝そうな声とあたしの声が重なる。 そのどっちの返事に対してか、日高という人は眉宇をひそめた。 「柏木……?」 つぶやきながら記憶を探っているようだった。 それが何か、思い当たったような表情と同時に手が緩んだ。 その隙にあたしは手から逃れた。 そのまま歩きだしても引き止められることはなく、ほっとした反面、疑問も生まれる。 何を思い当たったのだろう。 あの場の流れからすれば、あたしに関することになる。 いくら考えてもやっぱり何も見いだせない。 「おい」 桜並木を通りすぎてまもなく、あたしの思考は背中のほうから呼びかける声に中断された。
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